

この書店をここで紹介するのは、本来、正しくない。京都、寺町二条の「三月書房」。少なからぬ人がここを古書店だと勘違いしているが、そうではない。実際はれっきとした新刊書店であるからだ。
もっとも、店に足を踏み入れてみれば、ここを古書店だと誤認する人が現れるのも、納得はできる。天井まで届く書架を隙間なく埋め尽くすのは、濃密なこだわりを感じさせる書籍たち。人智学を提唱したルドルフ・シュタイナー関連のものや、ガロの系列に連なる漫画本、いかにも京都らしい白川静や石川九楊などの“書”や“字”にまつわる著述……。そうそう、店主の宍戸立夫に尋ねてみたところ、「短歌関連の本は多いよね。日本で一番だと思うけど」とも教えてくれた。これだけ指向性が現れる書棚というのは、古書店でもなければ、まず目にすることはない。いや、本来は書店とは、こうあるべきものなのかもしれないが。
そんな独特の磁性を宿した空間の一点に、店主である宍戸は陣取っている。言葉は悪いが、“偏屈な本屋のおやじ”といった評語がぴったりと当てはまりそうな印象だ。「老舗の本屋とか書かないように。以前、そう書かれたことがあるんだよ。創業わずか数十年で、どうして老舗になるのか、不思議だよ。この近くにある平楽寺書店なんか、たぶん日本最古の書店だけど、創業は慶長年間なんだから」
そんな宍戸によれば、新刊書店はある意味、古書店よりも厳しい状況にあるのだという。すでに一般流通していない古雑誌のような、“ここでしか手に入らない”という商材がないからだ。しかしおそらく、この「三月書房」は別だろう。書店文化の衰退に関する宍戸の批評は“毒舌”といっていい鋭さだが、その毒はすなわち薬でもある。何よりも、この空間に集められた書物たちという薬を求めて、人は寺町通りを北に上る。どこの神社や寺院より、京都を訪れたらまず「三月書房」に向かうという人がいるという事実が、それを証明する。
ふと見ると、レジ近くの書棚で惜しまれながら業務を閉じた出版社の本を数冊見つけた。これは評判いいんだよ。かなりよく売れる――そんな宍戸の声を聴きながら、できれば自分が作った本は、こういったスペースには並ばせたくないな、などと思っていた。

京都府京都市中京区寺町二条上ル
TEL:075・231・1924
営業時間:11:00AM~7:00PM 日曜・祝日昼12:00~6:00PM
定休日:火曜(祝日の場合は営業)
交通:市営地下鉄東西線京都市役所前駅より徒歩約5分
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